「伊根の舟屋」―観光人気と地域の葛藤、その今とこれから

京都府北部、日本海に面した伊根町には、約230軒の「舟屋」と呼ばれる独特の建物が海沿いに並びます。舟屋は1階が船のガレージ、2階が住居や作業場となっており、その美しい景観と非日常的な風情が国内外の観光客を魅了しています。

今、この「伊根の舟屋」がトレンドワードとして注目されています。FNNプライムオンラインの報道によれば、現地では「ひたすら迷惑…」という住民の切実な声が上がり、観光客による私有地への無断侵入やゴミのポイ捨て、さらには無断で住民宅のトイレを利用するなど、観光公害とも呼べる問題が深刻化しています。現地住民の「無断で人んちのトイレを使うってどういう神経してるんだろう」というコメントがSNSで広がったことで、話題性が一気に高まりました。

背景には、新型コロナウイルスの行動制限が緩和されたことで再び伊根を訪れる観光客が急増し、SNS映えスポットとして舟屋の写真が拡散されたことがあります。伊根町は観光振興に力を入れる一方、想定を超える来訪者による生活環境の悪化に頭を悩ませています。人口2000人あまりの小さな町に、年間30万人以上が訪れるようになったとも言われ、住民の生活と観光需要のバランスが大きな課題になっています。

具体的な問題としては、
・舟屋の私有地に無断で立ち入る観光客の増加
・ゴミや吸い殻などの投棄
・カフェや観光施設のトイレが足りず、住民宅のトイレ無断使用
・ドローンやカメラによるプライバシー侵害
などが挙げられます。町内では観光マナー啓発の看板設置や、観光船・駐車場の整備、住民と観光協会によるパトロールなど対策が進められていますが、十分な解決には至っていません。

今後の展望として、伊根町は「観光と住民の共存」を目指し、持続可能な観光への転換を模索しています。具体的には、ガイド付きツアーの導入や舟屋エリアの立ち入り制限、観光客向けの案内所・公共トイレの増設などが検討されています。また、観光客自身にもマナー向上が強く求められています。

伊根の舟屋は、古き良き日本の景観と人々の暮らしが今も息づく特別な場所です。観光地としての魅力と、そこに暮らす人々の思いの両方を大切にできる新しい関係性が、今まさに問われています。

「伊根の舟屋」が話題になっている今こそ、観光のあり方と地域の未来について、一人ひとりが考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。現地を訪れる際は、住民の生活への配慮とマナーを心掛け、持続可能な観光の実現に協力しましょう。

タイトルとURLをコピーしました